しばうら人 伊井 敬弘さん(東海旅客鉄道株式会社)
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最新の電力設備で、安全運行を支える
超電導リニアという世界初の技術で注目を集めるJR東海中央新幹線建設部に所属する伊井敬弘さんは、列車に電気を供給する電力設備の設計?工事?管理などを担当している。「自分が設計したものが動くのが楽しい」と言う伊井さんは、鉄道の安全運行を支える仕事に手応えを感じながら、技術者としてより進化するため、研鑽を重ねている。
伊井 敬弘さん
東海旅客鉄道株式会社
中央新幹線推進本部
中央新幹線建設部
電気工事部主任
2012年3月 電気電子情報工学専攻修了
超電導リニアにひかれJR東海に入社
大学院で電気電子情報工学を学んでいた伊井さんは、就職先として医療系と鉄道系の2分野を考えていた。どちらも、「世の中の多くの人に貢献できる」というのが理由だった。
大学?大学院を通して同じ研究室に所属し、プロテインチップを使った解析研究を行っていた。具体的には、シリコン基盤の上にプラズマ放電によって膜を作り、膜上に特定の病気に反応するたんぱく質を吸着させ、そこに血液を垂らすことで病気を特定するチップを作成、解析するという地道な研究だ。
医療系の方が研究分野には近かったが、時間が正確で安全運行に定評のある日本の鉄道の技術にも興味を持った。さらに、超電導リニアという世界初の技術に携われることに大きな魅力を感じ、中央新幹線の開通を目指すJR東海に入社した。
自分たちが考えたものが実際に動くのが楽しい
現在、伊井さんが担当している仕事は、電力設備の設計?工事?管理などだ。自分たちで設備の動かし方やスペックを考え、実際に機器を製作するメーカーと検討を重ね、設備を組み立てていく。伊井さんは「このプロセスを経て、自分たちが考えたものが実際に動くのを見るのは本当に楽しい」と言う。
最初に大きな仕事を任されて、成功させたのは東海道新幹線の設備更新を担当する部署で仕事をしていた入社4年目のことだった。滋賀の変電所の老朽化した電気設備を最新のものに入れ替えるというミッションで、工事期間は2年。他の2人の技術者とともに、電気工事の設計図を書き、工事会社や協力メーカーとともに設備を入れ替え、運用試験を頻繁に行った。「JR東海は大きな組織なので、経験の少ない自分に大きな仕事を任せてくれたことに驚いた」という伊井さんは、滋賀と神奈川の仕事場を往復しながら、着々と工事を進めていった。
もちろん、トラブルもあった。計画して、実際にやってみて、結果を評価して、悪い点があったら改善するというPDCAメソッドは、学生時代の研究で染み付いたやり方だが、実際にトラブルが起こった時は悩み、落ち込む。その時に伊井さんが思い出すのが、学部時代の研究室で先輩に言われた言葉だ。「研究は突き詰めないとダメだよ。安易な改善策ではなく、失敗の原因をとことん追求して、根っこの問題を改善する策を考えよう」と静かにアドバイスされてからは、その場しのぎの対応策ではなく、何が悪かったのかをとことん考えるようになった。
上司にも励まされた。「技術者にとって、トラブルを経験することは大事なこと。身をもって経験して得た知識は将来きっと役に立つ」と言われて、トラブルを恐れなくなった。
こうして、苦労しながらも電気設備の入替え工事は完了し、安全に列車を運行させるために必要な試験が行われた。伊井さんは、「自分たちが作り上げた変電設備から電気を供給された列車が、お客様を乗せ目の前を通るのを見た時は、ほっと安心した」と、晴れやかな笑顔で当時を振り返る。
技術力アップを目指しものづくりの現場を経験
伊井さんはメーカーに2年半出向し、ものづくりの現場も経験した。JR東海は「こういう設備を作るので、こういうスペックのものが欲しい」とメーカーに発注する側である一方、メーカーはその要望に合わせて最適な機器を提案して、実際に作成する側だ。伊井さんはこれまで、機器の発注と開発の過程でメーカーと話し合いを繰り返し、設備を作り上げてきた。「技術者としてレベルアップするために、勉強してきてほしい」と上司から送り出されたが、出向先でも仕事の違いはそれほどないと思っていた。ところが、新しい発見がたくさんあった。部品をひとつひとつ選定し、図面を書いて設備を組み上げていくというゼロスタートのものづくりのすごさを目の当たりにした。メーカー視点の性能試験の考え方も新鮮で、「面白くて勉強になった」と言う。
技術者としての進化と部下の育成に注力
伊井さんの今後の目標は、「後進の育成だ」と言う。主任になって3人の部下を持つことになったので、部下のレベルアップに力を入れている。職場には芝浦工業大学出身者が多く、その環境に育てられたので、次は自分が育てる側だと考えているのだ。
さらに、リニア中央新幹線の開業を大目標に掲げ、自分の技術力の進化も目指している。リニア中央新幹線にはたくさんの新しい技術が必要で、検討しなければいけないことがたくさんある。伊井さんは、新たな挑戦が技術者としての成長につながると信じ、自分の力を活かすことを楽しみにしている。