しばうら人 佐々木 周さん(自然電力株式会社)
- しばうら人
- 卒業生
都市交通の脱炭素化に挑戦
20年先を見据えた課題に取り組む
芝浦工業大学中学校?高等学校(現?芝浦工業大学附属中学校?高等学校)からエスカレーター式に進学し、大学2年次までは勉学に打ち込むというほどではなかったという佐々木周氏。そんな佐々木氏に転機が訪れたのは大学3年次の実験?研究だった。そこで得たある成功体験が、自身にとって“天職”といえる自然エネルギー開発の仕事にもつながっているという。果たして何が彼を変えたか?
佐々木 周 さん
自然電力株式会社
事業企画部 部長
西鉄自然電力合同会社 共同代表
2003年3月
機械工学専攻修了
勉学における最初の成功体験
私は芝浦工業大学の付属高校からエスカレーター式に進学したので、システム工学部(現?システム理工学部)を選んだ際は、あまり深い考えはありませんでした。だから大学2年次までは課題や定期テストはしっかりとやっていたものの勉学に打ち込んでいたというほどではなかったのですが、3年次から始まった実験研究がひとつの転機になりました。自分で仮説を立て、検証し、結果をレポートする、ただそれだけのことがすごくクリエイティブなプロセスに感じられたのです。
例えばある先生は、クラス内で誰が最適な流体の構造を作れるかというコンテストをやりました。要は、ある条件下で時速100kmで走る自動車があったとして、どのようなデザインであればより構造的な制約を受けずに済むか、各々がシミュレーションしていく。その時私は、生物は環境に適応して進化するものだと考え、サメの構造をもとに設計したところ、高く評価してもらえました。ただ、こうした課題に対する正解はひとつではない。正解はいくらでもあって、仮説検証を繰り返していくサイクルそのものが大事なのだと学びました。それはおそらく、生まれて初めて勉学にのめり込んだ瞬間であり、のめり込んだ結果を先生たちが面白がって評価してくれたという意味で、勉学における最初の成功体験かもしれません。
4年次になって研究室に入ると、まさに実験研究を日々繰り返す環境に身を置くことになり、最終的に私は修士課程まで進みました。大学4年次と修士の2年間で、私はたくさんの論文を書き、国内外の学会で発表する機会にも恵まれましたが、その間に専門性と呼べるようなものを身につけられたかというと、そうではありません。私が大学で学んできたのは、問題解決のため思考プロセスそのものです。つまり与えられた問題、または自ら発見した問題を構造的に理解し、解決策を導き出す。それを何パターンも試すことによって、最適なものに近づけていくことです。
“挑戦” が評価される環境を求めて
私が最初に就職したのはフューチャー株式会社というコンサルティング会社で、そこでも頭の使い方はまったく同じでした。コンサルティング会社を就職先として選んだ理由は2つあり、ひとつは自分には専門性がなく、これから何をなすべきかまだ見えていなかったから。もうひとつは、“挑戦”が評価される環境を求めていたからです。私にとって芝浦工大は挑戦を受け入れてくれる、あるいは挑戦の場を与えてくれる大学でした。そのおかげで絶えず何かにのめり込むことができたし、フューチャーもコンサル業界の中では異端的な、非常にチャレンジングな会社だと見られていたのです。
フューチャーで約8年働き、その後、自分で何か事業を展開できないか模索していく中で、現在勤めている自然電力株式会社という会社に出会いました。自然電力は、社名の通り自然エネルギーを作る会社で、かつて芝浦工大システム工学部の同じ研究室で一緒に汗水を流していた後輩によって創業されました。私が入社した当時は社員数5、6人でしたが、それから約12年経った今では400人ほどになっています。
その12年間、私は何をしてきたのか。振り返れば、一貫して新規事業の開発をしていました。最近では(福岡市に拠点を置くバス会社である)西日本鉄道株式会社(以下、西鉄)とジョイントベンチャーを立ち上げ、共同代表も兼務しています。新しいことを始めることに面白みを感じていられているのは、芝浦工大での成功体験が影響しているように思います。結局、事業開発という課題に対して、いかに嘘なくのめり込み、最適に近い形にたどり着けるか。その勝負になるからです。
誰にでも人生をかけて熱中できるものがある
芝浦工大の附属高校の校門のあたりに石碑が立てられていて、そこに「今が大切」と書かれていました。高校生の私はその言葉に何も感じていなかったのですが、今はその意味が分かります。加えて、かつてフューチャーの創業者に「未来を楽観視できれば、今に集中できる」と言われた時、その通りだと思いました。未来は不確かなものですが、それを理由に足踏みしていてはいけない。未来は必ず訪れるのだから、不確かなりに「きっとこうなるはずだ」と楽観的に捉え、今やるべきことに全力を注ぐ。そういう発想が、自分の判断や行動のベースになっているのだと思います。
例えば私が西鉄と一緒にやっている仕事のひとつは、都市交通を脱炭素化し、よりスマートに刷新していくことです。いつまでもCO2 を出し続ける都市交通など成り立つはずがなく、脱炭素化という未来はほぼ決定している。それを前提として、10年、20年先を見据えて今、さまざまな難問に取り組んでいる最中です。
これは私の持論ですが、誰にでも人生をかけて熱中できる、天職と呼べる仕事が必ずあります。ただ、それを見つけられるかどうかはその人次第でもある。私に限っていえば、芝浦工大の、挑戦を後押ししてくれる環境があったから、運よく今の仕事にたどり着けたのだと思っています。「自分には人生をかけて熱中できるものがある」ということを頭の片隅に置いておくと、大学生活、ひいては人生が楽しいものになるのではないでしょうか。