【授業レポート】赤ちゃんの好奇心に気づくためのシカケをデザインする【プロジェクト演習8】
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デザイン工学科で開講されている「プロジェクト演習」は課題発見?問題解決?提案のプロセスを実践的に経験するデザイン工学科の特徴的な授業の一つです。学部3年生の必修科目で、1年を通じて複数人の教員から指導を受けます。今回紹介するデザイン工学科?益子宗教授(メディア体験デザイン研究室)の演習授業では、企業や学外のステークホルダーから課題を発掘し、アイディア提案、サービスや製品のプロトタイプ制作まで行い、一連のデザインプロセスを実践しています。
授業課題
「赤ちゃんをあじわうワークショップ」において、赤ちゃんの好奇心に気づくための課題を見つけ、デジタル技術を活用して課題を解決するシカケをデザインして提案してください。
ピープル赤ちゃん研究所様による講演
初回授業では、今回のプロジェクト演習でご協力いただくピープル株式会社のピープル赤ちゃん研究所様にご講演いただきました。ピープル赤ちゃん研究所は、知育玩具など乳幼児向けの商品を製造?販売するピープル株式会社にて、「みんなが赤ちゃんを楽しみ、かわいがる社会に!」という願いをもって立ち上げられた社内研究所です。学生たちは、今回の課題にも関わる「赤ちゃんをあじわうワークショップ」の概要や、ピープル株式会社のおもちゃ開発プロセスの1つである「赤ちゃん観察」について説明を受けるとともに、実際のおもちゃを手に取りながら、そのおもちゃが赤ちゃんのどんな好奇心を満たすか考えました。「赤ちゃんをあじわうワークショップ」は、生後2か月~自分で歩き出す前までの赤ちゃんを対象に、色や仕掛けが異なる様々なおもちゃを用いて、赤ちゃんのありのままの反応を観察するワークショップです。参加するにあたり、赤ちゃんと触れ合うことに不安のある学生もいましたが、課題を見つけるうえでの心構えや赤ちゃん観察のコツを教わりました。また、質疑応答の場面では、積極的に手が挙がり、課題発見の手がかりを見つけようとする姿が見られました。
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講演の様子
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赤ちゃんの視界を疑似体験できる「赤ちゃんめがね」でおもちゃを観察
デザインプロセスの実践
学生たちは、6月20日に開催された「赤ちゃんをあじわうワークショップ」に参加。実際に参加することで得た気づきを共有し、赤ちゃん?保護者?ワークショップスタッフなど多方面から課題を洗い出しました。学生一人ひとりがそれぞれの感じた課題を解決するアイデアを考え、プロトタイプの制作に取り組みました。
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第2回授業
「赤ちゃんをあじわうワークショップ」に参加
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第3回授業 グループワーク
ワークショップで気づいた課題を共有
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第6回授業 進捗発表
益子教授から鋭い指摘が入ります
豊洲キャンパス開催「赤ちゃんをあじわうワークショップ」でモニターテスト
7月25日、豊洲キャンパスの教室に8組の親子をお招きし、「赤ちゃんをあじわうワークショップ」を開催。制作したプロトタイプを、実際に赤ちゃん?保護者の方?ワークショップスタッフに使ってもらいました。ワークショップ中も、プロトタイプをより良いものにするために試行錯誤する学生たちの姿が印象的でした。
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【制作したプロトタイプ】
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かざしてMOVIE
写真のQRを読み込むと動画も見られるサービス
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People’s
予約システム?観察カレンダーなどを含んだアプリケーションサービス
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automatic camera
自動で撮影し、その写真を皆で共有できるプロダクト(今回は手動)
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ランダムライトボール
赤ちゃんの関節の動きに反応して、光るプロダクト
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もちブルバウル
口に咥えたときに振動を与え、想定外の違和感を覚えてもらうプロダクト
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Tom-Tom
赤ちゃんの脈をとり、情報を増幅させて観察者に伝達するプロダクト
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赤ちゃんビューゴーグル
赤ちゃんの視界を再現するプロダクト
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ぴーぷるの P.O おもちゃ
赤ちゃんが全身で追いかけたくなるプロダクト
最終発表会
ワークショップでのモニターテスト終了後、ピープル赤ちゃん研究所の皆さんの前で最終発表を行いました。発表においては、参加した「赤ちゃんをあじわうワークショップ」で感じた課題、それを解決するための提案、プロトタイプの概要や制作過程などを説明するとともに、当日のモニターテストを通して気づいた改善点や感想を述べました。学生一人ひとりの発表に対し、ピープル赤ちゃん研究所の皆さんよりフィードバックをいただきました。ピープル赤ちゃん研究所の小板氏は「学生ならではの柔軟な視点でご対応いただいたので、私たちも新たな学びを得ることができました」とまとめました。
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受講した学生の感想
?これまでは自分がやりたいコンセプトでデザインしていましたが、今回は企業との連携とのことで、「赤ちゃん」という決められたテーマの中で自分の得意分野に落とし込まなければならない点が難しかったです。
?実際に企業の方とのやりとりがあり、本格的な感じがしました。また、実際に赤ちゃんに自分の作ったものを試してもらうことができ、そこで改善点が見つかったのが良かったです。
?自分でアイデアを生み出すというのが結構難しく感じるとともに、能動的に考える経験ができたので思考が育まれ、成長につながりました。
?最初は実現不可能なものを考えてしまっており、形にするためには限界があるということを痛感しましたが、その過程で新しい考えが思いつきました。初めてのアイデアを形にしていくという授業、楽しかったです。
?赤ちゃんを対象としていたので、プロダクトを考えるときにも今まで考えたことのないようなことまで配慮しなければならず大変でしたが、面白かったです。
■デザイン工学科 益子宗 教授 コメント
学生にコメントする際は「誰のためのデザインなのか」という点を意識しています。作りたいものを作りたいように作るだけでは、夏休みの自由工作の域を出ません。どうしてその色なのか、どうしてその形なのか、という「WHY?」の連続に、どう答えられるかで思考の深さが確認できると思います。
デザイン工学科の多くの学生が企画職に興味を持っていますが、アイデアをきれいなパワーポイントで提案するだけでは共感を得ることはできません。自分のアイデアを応援してもらうためにはどうすればよいかをもっと考えてほしいと思います。また、デザイン工学科の生産?プロダクトデザイン系ではプログラミングやデジタル技術を活用して実際にプロトタイプを作る機会が少ないため、インタラクティブに反応するものづくりを楽しんでほしいと考えています。その過程で新しい課題に気づき、それを改善していくイテレーションを繰り返すことで、アイデアを昇華させる学びを教科書ではなく実体験を通じて得てほしいです。今回のテーマである赤ちゃんは、学生にとって未知の存在であり、これまでの人生経験の延長線上に答えはなかったと思います。社会に出ると、答えのない課題にどう立ち向かうかという力が重要になるので、フィールドワークを通じて潜在的な課題を発掘する今回の経験でその勘所が少しはついたのではないかと思います。
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