しばうら人 大沢 拓也さん(コクヨ株式会社)
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工業大学出身ならではの多角的な視点を活かし、この世にないものを生み出していきたい
大手文具メーカーに勤務する大沢拓也さんは、デザインだけにとどまらず、企画?開発からプロモーションなど、その業務範囲は多岐にわたり、複数のプロジェクトリーダーを務める。大学時代にどのような学びがあったのか、工業大学出身であることがプロダクトデザイナーの仕事にどのように活かされているのか、大沢さんに話を聞いた。

大沢 拓也さん
コクヨ株式会社
システム理工学部 環境システム学科
2015年卒業
理工学研究科 機械工学専攻
2017年修了
プロダクトデザイナーを目指して芝浦工大に進学
将来の進路を考え始める高校時代、私の脳裏に浮かんだのは「ものづくり」と「デザイン」に関わる仕事、つまり「プロダクトデザイナー」という職業でした。そこで工学とデザインの両方を学べる大学を探して芝浦工大を見つけ、システム理工学部に入学しました。本当はデザイン工学部に入りたかったのですが希望がかなわず、新たな可能性を探りながらの大学生活のスタートでした。
ところが入学してまもなく、大学院生の先輩から「プロダクトデザイナーを目指すのにシステム理工学部で何がいけないんだ?両方学べば2倍の知識が手に入る。自分の意思さえ明確なら道は必ず拓けるはずだ」と指摘され、考えが変わりました。芝浦工大には他学部履修制度があるため、システム理工学部に在籍しながらデザイン工学部の授業も受講できました。さらに学部1年次にデザイン工学部の橋田規子先生のエモーショナルデザイン研究室を訪問したところ、「まずはデザインコンペに応募してはどうか」と助言をいただきました。「就職する際、工業大学の私が美大や芸大の卒業生と肩を並べて活躍するためには、コンペの受賞歴が多ければ多いほどいい」と考え、その後は学内外のデザインコンペに積極的にチャレンジ。4年次の卒業研究でも他学部研究室である橋田研究室に受け入れていただくことができました。その後、大学院では機械工学専攻に進学し、主にデザイン工学を専攻しました。

大沢さんが関わった商品
デザイン工学+システム理工 2つの学びが強みに

当初は落選続きだったデザインコンペでしたが、3年次に初めて受賞することができました。デザインしたのはキツツキのかたちをしたドアノッカー。実際に商品化もされました。それ以降、コンペに応募すれば必ず何かしらの賞を受賞できるようになりました。転機となったのは、「自分が欲しいものではなく、消費者が欲しがるものを見つけてデザインする」という発想の転換です。その際、システム理工学部とデザイン工学部の双方で学んだことがとても役に立ちました。専門的視点から意匠を考えるデザイン工学。課題に対して多角的視点からアプローチするシステム工学。両方の学びが互いに影響し合ってデザインにも活かせるようになりましたし、異なる視点からものを見る姿勢が身につきました。多くのコンペに応募したことで新規提案力も向上し、受賞歴は就職活動時にとても効果的だったと感じています。
他に学部時代には課外活動としてサンゴ礁保全プロジェクトにも参加しました。石垣島に1週間滞在し、保全活動を行うのですが、地元の方々との信頼と協力が前提です。まずは島で農業を営む高齢者の方々と親しくなる必要があり、一緒に食べて飲んで農作業を手伝うところからスタートします。島の観光協会にプレゼンテーションする機会も設けられ、コミュニケーション力とプレゼン力が鍛えられました。この頃に培った力は現在の仕事にもしっかりと活かされています。

自身の意思さえ明確なら道は必ず拓ける
大学院修士課程を修了後、コクヨ株式会社に入社しました。当初は意匠がメインのデザイン室に配属されましたが、4年目に「企画?開発も含めたデザインがやりたい」と経営陣に訴え、意中の部署に異動。以来、企画?開発?マーケティング?デザイン?プロモーションなど一連の新製品開発過程の舵をとるプロジェクトリーダーを複数務めています。これまでに手掛けた製品は、高輪築堤の木材を活用した鉛筆削りや、文具業界初のアクセシブルコード※を採用した紙パッケージなど。とにかく面白いもの、世の中にはない新しいものをつくりたい。そのためには企画段階から関わる必要がありますし、コストやスケジュールのすべてに責任を負わなくてはなりません。実社会でデザインをするためにはデザイン以外のスキルが必要で、一連の過程の知識と経験があってこそ、自分ならではのデザインが可能になるのだと思います。この考え方はシステム理工学部の澤田英行先生から学んだシステム思考です。デザインを表層的なアプローチではなく、その商品を取り巻く環境や仕組みを一体的に捉え問題を発見し解決する力。この学びがあったからこそ、今の私があると考えています。
※ 多言語?音声対応の2次元コード。
そんな私が日々の業務やプロジェクトの進行で心がけているのは、圧倒的な傾聴力を身につけること。関係者の話にとことん耳を傾け、必要なものを必要なタイミングで提供しつつ、言うべきことははっきりと言う。雑談力も大切です。案件に関わりのないことでも雑談などのコミュニケーションをすることで相手がプロジェクトを楽しむようになり、能動的に動いてくれることが少なくありません。その中で私は目標設定を具体化?可視化し、WIN−WINになる提案を社内外へ発信し続けます。今後も勤務先でインパクトのある新規事業や商品開発を進めつつ、個人ではクラウドファンディングなどを通して、社内では実現が難しいモノをつくり出していきたいです。

大沢さんが関わった商品
芝浦工大に在学中の学生さんや進学を考える高校生の皆さんには、ぜひ「将来自分がやりたいこと」を早めに見つけて、自分なりの学びを進めていただきたいです。工業大学出身のデザイナーは決して多くはありませんが、学生時代に学んだロジックの詰め方や工学系の多彩な分野の複合的な学び、多角的な視点はデザイナーとしての強みになります。自身の意思さえ明確なら、道は必ず拓けるとお伝えしたいです。