しばうら人 神山 麻子さん(太洋塗料株式会社 取締役 技術部長)
2022/05/26
- しばうら人
手を動かして実験を重ね、新しい”塗料の世界”を切り開く
塗料を開発し続けて20 年。会社で初めての女性エンジニアとして子育てと仕事を両立させている神山 麻子さん。実験を繰り返し、試作を重ねて新製品を追い求める神山さんのエンジニアとしての矜持とは。
実験が大好きだった学生時代
東京都品川区に生まれ、父もエンジニアだったことから自然と理科に興味を持つように。特に実験が好きで、「すべての現象は化学式で表せる」ということに感動し、中学?高校の先生の薦めもあって化学を深く学びたいと思った神山さん。そこで入学した芝浦工業大学工業化学科(現応用化学科)は女子学生が6人だった。大学全体としても、今よりもっと女子学生が少なかったため、他学科の女子学生とも仲良くなったそう。4年次には、有機化学の永田 親清教授(現名誉教授)の研究室に所属。特に将来への大きな目標も無い中で、先輩が塗料メーカーに就職すると聞いたときに、「大好きな実験に携われそうだ」と考えた神山さんは、大学の就職課にあった求人票の中から太洋塗料を見つけ、入社を決めた。入社後は、ひたすら塗料開発のための実験を重ねた。「就職して気付いたのが、実験の段取りが誰よりも早いことでした。チームの中で工学部出身が私だけで、工業化学科の実験で厳しく指導されていたので、その基礎ができていたのは芝浦工業大学のおかげだと思っています」。
入社後最大のヒット作 ~マスキングカラー~
入社後20年以上にわたり、環境負荷の少ない、溶剤の主成分に水を用いる塗料を中心にさまざまな製品の開発に携わり、赤いダルマ用の塗料や銀座にある歌舞伎座の白い壁の塗料なども手がけた。「塗料は、色だけでなく、用途 や性能によって求められる条件はさまざまです。何をどう調合すればその通りに機能する塗料ができるか、日々試行錯誤です。そのかけ算がバシッとはまったときにとてもやりがいを感じますね」と神山さん。そのキャリアの中で、一番のヒット作が「マスキングカラー」。デザイナーと組んで開発したもので、店のガラスやプラスチック面などあらゆる面に簡単に描け、楽にはがせるというペンタイプの製品だ。描きやすくはがしやすいという特性に、塗料をたれにくくするなどの工夫を重ねた。画期的な製品としてパリの展覧会でも好評を博し、店頭のディスプレイやデコレーション、スマートフォンカバーへの装飾などの用途に売り上げを伸ばした。この「マスキングカラー」は、2013年度のグッドデザイン賞その他多数の賞を受賞、神山さん自身も大田区のものづくり優秀技術者「大田の工匠Next Generation」に選出された
神山さんが手がけた「マスキング カラー」。ペンのように好きな所に自由に塗ったり描いたりした後から、はがして描き直す?別の所に貼り直す?描いたところを元通り戻すといったことが簡単にできる。窓や壁などへの飾り付 け、イベントのデコレーションや、ショーウィンドウへの情報の書き込みなど、はがせることでいろいろな可能性が生まれる。
女性のエンジニアとして
入社当時、女性のエンジニアはひとりもいなかったが、当時の社長(現会長)が、『これからは女性が活躍する時代だ!』と神山さんを採用。産休?育休に関しても会社がいろいろとバックアップをしてくれたそう。「前例がなく、既存の道はなかったので、他業種の例も調べながら、自分が通りやすいように進めばいいと思っていました。周りも配慮してくれましたし、子どもを産んでから時間の使い方?優先順位の付け方が変わりましたね。一方で、女性として行使できる権利を主張するだけでなく、当然ながらしっかりと仕事をして、必要とされる人材であり続けること、そして周りとうまくコミュニケーションを取ることが必要です。良くも悪くも注目をされるので、それを意識しつつ、うまく利用して自分で環境を整えていくことが大事ですね」と、これまでの経験を語る神山さん。出産し、子育てをしながら第一線のエンジニアとして活躍し続ける神山さんは、社内の貴重なロールモデルとなっている。
これから
「今後は、脱石油原料の塗料を開発したいと思っています。また、コーティングの技術を使って、塗料のアプローチから空気を浄化するなど、新しい塗料の概念を作っていきたいです」とこれからの抱負を語る神山さん。今や技術部長で取締役となり経営にも携わっているが、今でも社の実験室で部下と共に日々実験を重ね、新たな塗料の開発に取り組むなど、学生時代に掲げていた“大好きな実験に携わる仕事”を実現している。