しばうら人 川合 俊輔さん(Tigerspike株式会社)
2022/03/14
- しばうら人
デザインの価値を日本企業に広める
UXデザイナーという、聞きなじみのない職業に就く川合俊輔さん。「デザインの価値を日本企業に広める」ことを目標に、日々仕事をしている。仕事をする本人もデザインした製品も全てに「楽しい」が詰まっているという。どのような経験が、そうした仕事に結びついていくのだろうか。
デザインの価値を広める
「体験をデザインする」こと、それがUXデザイナーの仕事だという。2014 年度にデザイン工学科2期生として卒業した川合さんは現在、人間に寄り添うデジタル?プロダクトを開発するTigerspike株式会社で、世界12拠点のグローバルなメンバーと共にUXデザインの仕事をしている。
機械を設計するわけでも、目に見える絵を描くわけでもない、体験のデザインは短期的に価値を理解することは難しく、先進的な海外の国と比べてお金を出す文化が日本ではいまだ根付いたといえない。その中で、よりよいサービスをユーザーに提供し続けることが、デザインの価値を世の中に広めると、一つ一つの仕事にこだわりを持って取り組んでいる。後進の育成にも積極的で、業務の経験を非常勤講師として芝浦工業大学の授業「UXデザイン演習」で伝える。
UXデザインとの出会い
川合さんが仕事にするUX デザインとは、User Experience( ユーザエクスペリエンス)デザインの略であり、そのまま日本語にして、ユーザー体験の設計となる。物理的なモノを設計するわけではなく、例えばウェブサイトの利用者が、サイト訪問から情報の収集、サービスの利用など、楽しくサイトを利用できるように、目に見えない体験を設計する。ユーザーの調査やニーズの分析、デモサイトの評価測定など、ユーザー中心のデザインアプローチで目に見えないものを言葉や数値で見える化し、デザインしていく。その中でも、スマートフォンやパソコンなどデジタル機器を通して、Webサービスやアプリケーションを利用し、体験をデザインすることが川合さんの専門だ。しかし、大学入学時は、川合さんもまだ「UXデザイン」という言葉は知らなかったそう。それもそのはずで、Google Trendsで「UX designer」と検索すると、世界でこの単語の検索が緩やかに増え始めたのが2011 年頃。2013 年に就職活動を始めた川合さんは、職種としてまだ一般的な認知がない時期に職を得たことになる。
もともと、自作の本棚を設計して制作したり、照明機器を電子工作したり、モノづくりが大好きな子供だった。身近なものをデザインし、周りの人に喜んでもらうサポートができる仕事がしたいと、当時できたばかりのデザイン工学科に入学。高校生のころに初代iPhoneが発売され、大学在学中には多くのアプリケーションやWebサービスが、世の中を大きく変えていくのを目の当たりにしたことで、デジタル技術?ITを通じた新たな体験をデザインする仕事こそ、世の中に大きなインパクトを与えられると確信したという。大手家電メーカーのインターンシップに参加したときに初めて、「UXデザイン」という言葉に出会った。同時に4年次、後に恩師となる吉武良治教授がUXデザインの専門家として、デザイン工学科教授に就任した。まさに、川合さんの積極的な活動と、周囲の環境がうまく合致して、UXデザイナーへの道のりが始まったといえる。
日々の仕事を楽しむ
2019年7月にリリースされたJALアプリの大幅リニューアルでも、チームメンバーとしてUXデザインの仕事をこなした。予約から搭乗までを幅広くサポートするアプリで、「準備」「出発」「機内」「到着」の4つの段階に合わせ、 それぞれのタイミングで必要となる情報を自動的に表示する設計で、その時ユーザーが必要な情報をスムーズに取得できるようになった。情報を正確に提供するというアプリ提供側からの視点だけでなく、そのアプリがユーザーにとってどのような利用体験であるべきかを考えられた結果だ。
画面デザインそのものを設計する専門家やアプリ提供側の担当者など、多くの人とチームを組みコミュニケーションをとることも、ものづくりでは重要になる。メンバーの力を最大化させてアイデアを広げ、より良いものをつくるには、自分自身が仕事を楽しみ、周囲の人が前向きで気持ちよく仕事をしてもらえる環境を作ることが重要だと考えている。そのため、グローバル企業らしい自由な文化を持つ社内習慣も楽しんでいる。毎週の「フライデーランチ」では、交代でメンバーが料理を担当してご飯を振舞ったり、ヨガやラジオ体操を行ったり、仕事を楽しむイベントが多いのだ。
デザインは楽しい。デザインは人を幸せにする
(広報誌「芝浦」2020年春号掲載)