芝浦工業大学、オリエントコーポレーションとトッパンフォームズ 視線?脳波計測を活用してWebサービスのユーザビリティ分析手法を確立
2023/03/22
- 研究
- プレスリリース
メンタルモデル構築状況に関する共同研究を実施
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【芝浦工業大学ニュース】芝浦工業大学、オリエントコーポレーション、トッパンフォームズが共同研究.pdf
【背景】
IT化が進んでDXが加速している現在、さまざまなWebやソフトウェア、アプリなどが日々登場して使用されています。それらは1度しか使わないものもあり、日に何度も使うものもあります。製品?サービス、そして利用者によって、利用回数と利用間隔?頻度はさまざまです。「メンタルモデル」は心理学の用語で「人や物、動物などに対して持っている無意識のイメージ」です。人間工学や人間中心設計では「何かの製品やサービスを利用する際の結果のイメージや心づもり」などとしても使われるようになりました。メンタルモデルが構築されると、どう行動すればいいのか分かるようになります。逆にメンタルモデルが構築されにくいとは、何回使っても覚えにくいということになります。
製品?サービスのユーザビリティが高いということの1つとして、「初めてでも迷わない」や「すぐに慣れる」ということがあります。それは最初から、または早い段階でメンタルモデルが構築されるということになります。これまでメンタルモデルの構築状況は、利用時間や操作ミスの回数などで判断していました。
芝浦工業大学では視線計測装置を使ったメンタルモデル構築の研究を行っていました。一方、トッパンフォームズでは視線と簡易脳波計測装置を使って、研究や得意先の印刷物やWebなどのCX(カスタマーエクスペリエンス:顧客体験)改善を行っており、また、オリコでは会員サイトのUIUXの再構築を目指しており、ユーザビリティに関する新しい着眼点を取り入れることで、さらなるCX向上にメンタルモデル構築の研究が有益と判断し、共同研究に参画しました。
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【研究概要】
本研究では、メンタルモデルの構築状況のほかに、構築の促進要因と阻害要因を把握することを目的としています。メンタルモデルの構築の促進要因と阻害要因を把握できれば、今後印刷物やWebに促進要因を盛り込み、阻害要因をなくすことで、メンタルモデルが早く構築できるようになります。具体的には芝浦工業大学とトッパンフォームズが保有する視線と簡易脳波計測装置で、オリコの会員サイト「eオリコ」上でのメンタルモデルの構築状況を計測しました。「eオリコ」で利用目的が異なる2つのパターンを想定し、各パターンで指定する箇所(以下、確認事項)を複数確認するテストを設定しました。1テスト各5人合計10人の実験協力者に1人5回、時間を置いて同じテストを繰り返しました。テストの内容を決める段階で「eオリコ」の中で“分かりづらい”と予想される操作を把握し、テストで迷うかを確認しました。【調査結果】
視線計測では、2パターンとも、2~3回目で視線の移動距離が少なくなっていたことから操作する場所がイメージできていると判断でき、メンタルモデルが構築されたと判明しました。所要時間に関しても、視線の移動距離に比例していました(グラフ1?2:パターン1の例)。また、メンタルモデルの構築の促進要因は視線の滞留が短く、阻害要因は視線の滞留が長かったり、注目したり操作すべき部分に視線がすぐにいかなかったりすることが分かりました。
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【分析?考察】
パターン1と2の確認事項別のNE比を計算しました(表2)。NE比とは、何かを使用したときのノービス(初心者)の所要時間とエキスパート(熟練者)の所要時間で割ったものです(例:ノービスが5秒、エキスパートが1秒なら5÷1で、NE比は5.0)。NE比は4.5を超えると、初心者にわかりづらいので改善が必要とされています。NE比はパターン1全体で5.7、パターン2全体で9.2と比較的高く、初心者にわかりづらく、改善が必要という結果となりました。パターン1?2の確認事項ごとの数値では、確認事項1はそれぞれ他の確認事項よりNE比が低いことが判明しました(表2赤枠)。パターン1?2の確認事項1には、マイページのログインが含まれていましたが、文字の読み間違えが多く、セキュリティを高めるための工夫が、かえってログイン阻害につながる要因となっていました。(図1)。
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【今後の展開】
本研究では、メンタルモデルの構築の促進要因と阻害要因は、視線の移動距離や滞留などから判断できるという結果が出ました。また、使い続けても「いつも使いづらい」や「時々使いづらい」ケースがあり、視線データでなくても所要時間などがわかるWebなどの「ログデータ」でその要因を特定できる可能性があることがわかりました。画面にさまざまな要素が画面に存在する場合より、要素が少ないスマホの画面などの分析に適しています。今後は、既存製品?サービスの評価や、新製品?サービスの開発において、ログ分析を行うことで、CX向上を実現する新たな価値の創出?提供を目指していきます。