しばうら人 松島 由奈さん(パナソニック サイクルテック株式会社)
2021/02/25
- しばうら人
生活に溶け込む自転車をデザインする
パナソニック サイクルテック株式会社でデザイナーとして活躍する松島由奈さん。社会人4 年目の若手女性社員として、子育て世帯向けの電動アシスト自転車を担当し日々奮闘している。「『機能美』こそ究極の美である」と語る松島さんは、どんな未来を見ているのだろうか。芝浦工業大学での学生生活や現在の仕事への姿勢から、視線の先を追った。
松島 由奈さん
パナソニック サイクルテック株式会社
商品企画部 デザイン課
2017 年3 月 デザイン工学科卒業
徹夜しても楽しい
「好き」に気づいた瞬間
「モノとしての美しさって不変だと思うんです。『機能美』って言いますが」。まっすぐに語る松島さんは、2017 年にデザイン工学科を卒業、パナソニック サイクルテック株式会社にプロダクトデザイナーとして新卒入社した若手女性社員だ。入社から一貫して子育て世帯向けの電動アシスト自転車のデザインを担当している。
幼いころは絵を描くことが好きだった。ぼんやりとデザイナーという仕事が浮かんできたのは大学受験期。美術大学を選ばなかったのは、個人差のある感性からアプローチする美しさよりも、モノとしての美しさである『機能美』に惹かれたからだ。それなら工業大学でこそ学べることがあるのではないかと考え、芝浦工業大学への進学を決めた。人に何かを教えることも好きだったため、在学中に教職課程も受講していたが、デザイナーになろうと決意したのは大学の研究を通じてデザインすることが好きな自分に気付いたからだ。「時には徹夜してでも課題に取り組みましたが、それでも楽しかったんです。あぁ、自分はこれが好きなんだなと思いました」。
一般的に、デザイン職は採用枠が狭いといわれる。就職活動中、周囲の学生の中には視野を広げて企画職やエンジニア職に就職する人もいたが、松島さんはデザイン職であることにこだわり続け、晴れてパナソニック サイクルテック株式会社に内定した。
幼いころは絵を描くことが好きだった。ぼんやりとデザイナーという仕事が浮かんできたのは大学受験期。美術大学を選ばなかったのは、個人差のある感性からアプローチする美しさよりも、モノとしての美しさである『機能美』に惹かれたからだ。それなら工業大学でこそ学べることがあるのではないかと考え、芝浦工業大学への進学を決めた。人に何かを教えることも好きだったため、在学中に教職課程も受講していたが、デザイナーになろうと決意したのは大学の研究を通じてデザインすることが好きな自分に気付いたからだ。「時には徹夜してでも課題に取り組みましたが、それでも楽しかったんです。あぁ、自分はこれが好きなんだなと思いました」。
一般的に、デザイン職は採用枠が狭いといわれる。就職活動中、周囲の学生の中には視野を広げて企画職やエンジニア職に就職する人もいたが、松島さんはデザイン職であることにこだわり続け、晴れてパナソニック サイクルテック株式会社に内定した。
社会人1年目 大学でのデザインとの違い
入社後デザイン課に配属されると、1年目から子育て世帯向けの電動アシスト自転車の担当を任されることに。「すごく早くて驚きました」と笑った。前任者が産休に入ったこともあり、右も左も分からないまま、商品デザインに関するあらゆる仕事を任された。フレームの曲げ具合から一つ一つの部品の色、チェーンケースの形やカギのデザインから、ロゴのデザインまで。「プロダクトデザイナーなのにロゴまで担当するのかと。実際に商品を作るとなると、造形だけやっていれば良いというわけにはいかなかったんです」。
デザインをする上で、大学生と社会人の一番の違いは、「実際に世の中で売られるかどうか」。大学生はいくら良いデザインを考えても発表して終わりだが、社会人は本当に販売されるので責任は桁違いだ。そのためには根詰めて考える作業も必要だが、市場調査やユーザー分析も欠かせない。「そのフローは研究室で学んでいたので、学生時代の経験が役に立っています」。
デザインをする上で、大学生と社会人の一番の違いは、「実際に世の中で売られるかどうか」。大学生はいくら良いデザインを考えても発表して終わりだが、社会人は本当に販売されるので責任は桁違いだ。そのためには根詰めて考える作業も必要だが、市場調査やユーザー分析も欠かせない。「そのフローは研究室で学んでいたので、学生時代の経験が役に立っています」。
▲ カラーチップを手に車体を見ながらフレームの色を検討する松島さん(左)
自転車は使ってもらっている姿を直接見ることができる
一方で、社会人になってから初めて学んだこともある。生産に至るまでの調整やプレゼン作業だ。「デザインの良さを理解してもらうことは非常に難しい。コストの比較は一目でどちらが良いか分かります。でもデザインは、実際にモノになる前のイメージの状態で、明確な基準がないまま比較しないといけない。どちらのカタチが売れるでしょう、という問いはすごく難しい」。その上、実寸で形になった時、イメージで感じていた印象がそのままとも限らない。思い描いているデザインの良さを本当の意味で理解してもらう難しさに日々格闘している。
仕事をする中でのやりがいについて伺うと、表情がぱっと明るくなった。「やっぱり自分の商品が実際に使われているのを見る瞬間ですね」。松島さんが通勤中に毎日見かける子ども連れの母親がいる。その母親が乗る自転車は松島さんがデザインしたものだ。家電やインテリアは消費者が使っている場面を直接見ることは難しい。けれど、自転車は目で見ることができる。それが大きなやりがいに繋がっている。
仕事をする中でのやりがいについて伺うと、表情がぱっと明るくなった。「やっぱり自分の商品が実際に使われているのを見る瞬間ですね」。松島さんが通勤中に毎日見かける子ども連れの母親がいる。その母親が乗る自転車は松島さんがデザインしたものだ。家電やインテリアは消費者が使っている場面を直接見ることは難しい。けれど、自転車は目で見ることができる。それが大きなやりがいに繋がっている。
どこでもいいけれど、デザインはしていたい
現在、社会人4年目の26歳。若手社員の彼女は、将来に何を見据えているのだろう。「そうですねえ……」。言葉が途切れた。時間を置いて出てきたのは、「デザインはしていたいな」という思いだ。「『プロになるまで10年』という言葉をどこかで聞き、耳に残っています。就職活動中もそうでしたが、どこにいても構わない。ただ、10年くらいは自分の手でデザインをしていたいとだけ思っています」。
そんな松島さんに一貫するのは、『機能美』への思いだ。機会があれば自転車に留まらず、義足のデザインもしてみたいと話してくれた。「自転車も一種の身体拡張だと思っていて、義足にも通じるものがあると思います」。ただし、性質上義足は自転車よりも人体に近く、制約が複雑だ。それでいて不格好であってはならない。単なる造形ではなく、その先の未来の義足に憧れているという。自転車であっても義足であっても、機構のままに美しく、使用者の生活に溶け込んでいるようなデザイン。それが松島さんの追い求める理想だ。そのためには、「自分の目を鍛える」ことが必要不可欠だと語る。「いろんなものを見て、聞いて、蓄積する。良いカタチを見つけたら、なぜ良いのかを突き詰める。その繰り返しは非常に重要だと思っています」。照れ笑いをしながらも、仕事への徹底的なこだわりを見せてくれた松島さんの挑戦に終わりはない。
そんな松島さんに一貫するのは、『機能美』への思いだ。機会があれば自転車に留まらず、義足のデザインもしてみたいと話してくれた。「自転車も一種の身体拡張だと思っていて、義足にも通じるものがあると思います」。ただし、性質上義足は自転車よりも人体に近く、制約が複雑だ。それでいて不格好であってはならない。単なる造形ではなく、その先の未来の義足に憧れているという。自転車であっても義足であっても、機構のままに美しく、使用者の生活に溶け込んでいるようなデザイン。それが松島さんの追い求める理想だ。そのためには、「自分の目を鍛える」ことが必要不可欠だと語る。「いろんなものを見て、聞いて、蓄積する。良いカタチを見つけたら、なぜ良いのかを突き詰める。その繰り返しは非常に重要だと思っています」。照れ笑いをしながらも、仕事への徹底的なこだわりを見せてくれた松島さんの挑戦に終わりはない。
(広報誌「芝浦」2021年冬号掲載)
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