しばうら人 田村 里美さん(サッポロビール株式会社人事部)

2021/11/25
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専門分野の枠を越えて挑戦する価値

周囲が建設関係や公務員といった進路を選ぶ中、土木工学を専攻しながらサッポロビール株式会社の機械?電気系のエンジニアとなった田村里美さん。「経験の幅や自分の視野をもっともっと広げていくために」。同社初の女性エンジニアでもあった田村さんの道程は、技術者が持ち得る可能性の大きさを改めて私達に伝えてくれる。
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田村 里美さん
サッポロビール株式会社人事部

2007 年3月 建設工学専攻修了

学んできた専門分野だけで未来を縛りたくない

土木工学の専門知識を大学で学び、将来はゼネコンや公務員の道へ。学部や専攻で得られる知識の専門性が高い工学系分野だからこそ、卒業後はその知識を最大限に活かせる舞台を目指すことが多いが、修士課程修了間近の田村さんが見据えていたのは少し異なる未来だった。「大学6年間で学んだことだけを専門にしたくない。学んできた土木工学を軸としながら、もっと自分のできる範囲を広げていきたいと思っていて。ちょっと変わった人に見られていたかもしれませんね」。そうして田村さんが選んだのは、サッポロビール株式会社の機械?電気系の技術系総合職という道。機械や電気系の分野を専門とする人達に囲まれ、これまでと異なる分野を学ぶことから、社会人生活ははじまったという。
そもそも土木工学科へ進学した背景には、自分がいなくなった後も残るような大きな仕事を手掛けたい、という夢があった。その後、大学で学ぶうちに環境分野に惹かれ、菅和利教授の水圏環境研究室へと入室。直線河川に斜め堰を設置した際の流れ構造や生態系に与える影響など、河川環境の研究に打ち込んでいく。「もっと勉強して視野を広げられるならば、それが将来の可能性を広げることにもつながるはず」と、大学院へと進学。そして2年後に田村さんは大学を卒業し、現在の会社と出会うこととなる。

新しい知識を得ること成長することの楽しさ

サッポロビール株式会社の機械?電気系の技術系総合職。その主な業務は工場における新規設備導入や新システムの構築、効率的なエネルギー供給、生産管理、建物補修管理など、非常に多岐にわたる。「土木、建築、機械、電気など、幅広い知識がなければ仕事にならない。けれども何もない更地に工場を建てて、ビールづくりができるようになるまでの全工程に携わることができる。面接で話を聞いた時、私がやりたいのはまさにこういう仕事だ、と思いましたね」と田村さんは語る。 入社後、約1年半の本社勤務を経て、晴れて待ち望んでいた工場へ。さまざまな分野の新しい知識や情報を吸収しながら成長していける環境、そして何より毎日ビールづくりに関われることが楽しく、居酒屋などで自社製品を楽しんでいる人達の笑顔を見ることが大きな喜びとなっていく。 
その一方で、実は会社にとって田村さんは少し特別な存在でもあった。それが“はじめての女性エンジニア”ということ。当初はどうすれば周囲に女性という意識を持たれずに、いち技術者として認めてもらえるか悩んだ時期もあったという。
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人事部でミーティングの様子(左端田村さん)

一人の技術者として信頼されるために

当時、田村さんが意識していたのが、他の人が嫌がる仕事でも率先してやっていくことだ。「これは男性がやるべき仕事だから」と業務の線引きをされたくない。たとえば工場の廃水設備工事など、敬遠されがちな仕事にも積極的に取り組むことで、技術者としての信頼を獲得していった。「周囲が女性技術職社員に慣れていなかった昔の話ですけどね。そういった中で、数千万円、数億円と、段々と大きな仕事を任されるようになった時の達成感は大きかったです」
そんな田村さんに、自身の強みを聞くと、すぐさま返ってきたのが「欲張り」という答えだ。社内で全国的なプロジェクトが始動すればすぐに手を挙げて参加し、新しい知識や経験を積み重ねていく。女性活躍推進やダイバーシティ&インクルージョンの実現など、全社的な組織強化のためのプロジェクトメンバーにも参加した。“会社ではじめての女性エンジニア”という枠はもとより、工場というフィールドにも限定されず、積極的に外側へと世界を切り拓いていく田村さんの姿勢。その深部にあるのは、学んでいた土木工学から領域をさらに広げていこうと就職先を選んだ時から変わらない、自身の可能性への追求なのかもしれない。


技術者の枠を越えて自分にできることとは

2度の産休といったライフイベントを挟みながら、田村さんは約8年半にわたって工場に勤務し、その後、本社の生産技術本部に異動。現在はさらに人事部へと所属を変え、技術職社員の採用、ダイバーシティ&インクルージョン推進、次世代育成、海外駐在員サポートなどを手掛けている。工場での仕事とは大きく異なるが、この異動は本人の希望によるもので、そこにはまた新たなビジョンがあるのだという。それが工場における教育体制の拡充やキャリアアップ支援など、現場社員がモチベーション高く働ける環境をつくるという目標だ。
「生産現場で働く社員のためにいち技術者としてできることは、実はすごく少ない。より良い職場をつくっていくため、現場の声を経営側に伝えることは、工場で長く働いてきた私が取り組むべきミッションだと考えています」。 
生産現場の技術者から、今度は生産現場の社員達を支える存在となるために。田村さんの「欲張り」な姿勢は、またひとつ新たな可能性を切り拓くきっかけとなっている。

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工場の生産現場でエンジニアとして勤務する様子(左側田村さん)
(広報誌「芝浦」2021年秋号掲載)