豊洲キャンパス本部棟 竣工記念座談会<前編>
2022/08/25
- キャンパス
新時代の大学のランドマークとして「本部棟」誕生までの軌跡
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2022年9月より本格的に使用が開始される、豊洲キャンパスの新校舎「本部棟」。その先進的な機能や意匠のみならず、建設過程を通して込められた想いについて探るべく、ここでは山田純学長、設計を手掛けた日建設計?飯島敦義氏、施工を手掛けた鹿島建設?番尚雄氏/渡邉和寿氏、さらには設計監修を手掛けた堀越英嗣名誉教授に、誕生までの秘話をうかがいました。
基本情報
● 豊洲キャンパス 本部棟 [英語名称:Centennial Main Building](東京都江東区豊洲)
● 鉄骨造(地下:鉄骨鉄筋コンクリート造、地上:鉄骨造)
● 地上14階、地下1階
● 延床面積:44,119.54㎡
● 建築面積:4,323.08㎡
● 設計監修:堀越英嗣(芝浦工業大学名誉教授)
● 設計?監理:株式会社日建設計
● 施工:鹿島建設株式会社 横浜支店
● 豊洲キャンパス 本部棟 [英語名称:Centennial Main Building](東京都江東区豊洲)
● 鉄骨造(地下:鉄骨鉄筋コンクリート造、地上:鉄骨造)
● 地上14階、地下1階
● 延床面積:44,119.54㎡
● 建築面積:4,323.08㎡
● 設計監修:堀越英嗣(芝浦工業大学名誉教授)
● 設計?監理:株式会社日建設計
● 施工:鹿島建設株式会社 横浜支店
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―今年4月に無事竣工に至った本部棟が、9月から本格的に授業で利用されはじめます。完成に至るまで、プロジェクトはどう進められたのでしょうか。
山田:私は2015年から工学部長を務めていますが、当初は建設計画の中身までは詳しくなく、理事(施設担当)に就任してから、計画に深く関わるようになりました。キャンパスごとの設置学部や本部機能の設置場所など未確定な部分も多く、本部棟の輪郭は大学の周辺計画と並行して段々と明確になっていきました。堀越:私が本部棟の計画に携わるようになったのも、その頃からです。もともと日建設計の方で、基本アイデアをつくって大学と議論を重ねていたのですが、山田先生が理事になったタイミングで進行中の計画を見て、私のところに相談に来られた。工学部と建築学部というお隣の学部長同士のよしみ。偶然のようなきっかけです。
山田:ちょうど日建設計から第二次案を提案いただいた時期です。実のところ当初はここまで大きい校舎が建つと想像しておらず、いざ提案を見るとその規模に面食らってしまって。思わずお隣の堀越先生の部屋をノックしに行きました。
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計画段階で作成されたスタディ模型。それぞれの右下が 豊洲駅からの玄関口となる入り口
飯島:実は本部棟のプロジェクトの検討はそのずっと以前、2014年からスタートしていたのですが、一旦先行して『アーキテクチャープラザ』をつくろうという計画になりまして。その完成を待って、2017年から、本部棟の計画が再始動しました。当初はなかなか方針が固まらず……というのが正直なところです。
堀越:山田先生と計画について検討する中で、まず重視したのが、学生たちが毎日通る角地のエントランスをどうつくるか、ということ。大学がキャンパスを構えるずっと以前から豊洲の歴史を見てきた大樹をシンボルとして残し、中庭、そして研究棟まで通じる空間を創出したいと考えました。当初の案は、本部棟が大学の入口となる角地を塞いでしまうような建付けになっていまして。そこで山田先生と結託して(笑)、 私の手で本部棟のアイデアをいちからつ くってしまったんです。議論が膠着してい る中で、改めて本部棟を計画す る上で重視すべき優先順位がど うあるべきか、大学としてのマ スタープランを再度考えるきっ かけになれば、と。
飯島:建築の専門家である堀越先生に入っていただいたことは大きかったです。本部棟から中庭を空間的につなぐ、大学とまちをつなぐというコンセプトを共有できたことで、目指す方向性が明確になりました。堀越先生のアイデアが、プロジェクトを前進させ る起爆剤になったと言えます。
堀越:山田先生と計画について検討する中で、まず重視したのが、学生たちが毎日通る角地のエントランスをどうつくるか、ということ。大学がキャンパスを構えるずっと以前から豊洲の歴史を見てきた大樹をシンボルとして残し、中庭、そして研究棟まで通じる空間を創出したいと考えました。当初の案は、本部棟が大学の入口となる角地を塞いでしまうような建付けになっていまして。そこで山田先生と結託して(笑)、 私の手で本部棟のアイデアをいちからつ くってしまったんです。議論が膠着してい る中で、改めて本部棟を計画す る上で重視すべき優先順位がど うあるべきか、大学としてのマ スタープランを再度考えるきっ かけになれば、と。
飯島:建築の専門家である堀越先生に入っていただいたことは大きかったです。本部棟から中庭を空間的につなぐ、大学とまちをつなぐというコンセプトを共有できたことで、目指す方向性が明確になりました。堀越先生のアイデアが、プロジェクトを前進させ る起爆剤になったと言えます。
地域と大学をつなげる 開放的なアプローチ
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2006年豊洲キャンパス開校前からある大樹
―本部棟を拝見すると、アルミルーバーを格子状に配した、上に広がる印象的なデザインが目を惹きます。
堀越:空間設計は私と山田先生で考えたアイデアも取り入れながら徐々に固まっていきましたが、あの印象的な意匠は日建設計の初期提案から実はそう大きく変わっていないんです。
飯島:特徴的に上に広がる意匠には、未来に向かう発展と成長といったメッセージや、周囲の街区を敷地内に引き込むことで地域 とのつながりを叶えるなど、さまざまな狙 いがあります。また上広がりの意匠ですか ら、自ずとすべてのフロアは異なる形にな り、柱も斜めに設置しなくてはいけない。 研究棟がつくられた2006年ならば、な かなか困難な施工だったと思われます。し かし当時と比べ、設計?施工の技術は大き く進化を遂げました。最新の技術を学ぶ理 工系大学の校舎ですから、そうした最新技 術を活用した建築であるべきだろう、とい う想いも込めています。
堀越:私としては3階までの空間を抜いて、ピロティ(柱だけで構成された吹き抜け空間)とすることが、中庭までつながる空間を創出するための重要 なポイントでした。天 井を支える白い柱は、 ギリシャのパルテノン 神殿に代表される、芝 浦工業大学の校歌の歌 詞にもある「白亜の殿 堂」からインスピレー ションを得たもので す。中庭まで通じる空 間に圧迫感を出さない よう、天井は柱が映り 込んで伸長して見える よう仕上げてもらいた い、と。予算の兼ね合 いもあり、鹿島建設には難しいお願いをし たかな、と思っていたのですが……。
山田:番さんが「塗装でいけます!大丈夫です!」って、確信があったのか、随分と軽快に答えてくれましたね(笑)。
番:天井塗装のサンプルは、10パターンくらい提案したことをよく覚えています。完成した校舎を見ていただくとわかりますが、しっかりと天井に柱が映り込み、圧迫感を抑えられています。結果として予算の中で満足していただける仕上がりを実現することができました。
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―そのような建物の意匠が大きく固まった後、学生や先生方にどのように使ってもらうか、つまりは施設の機能面を詰めていく形になったと。
堀越:大学校舎というと昔は、長い廊下の両側に教室が並び、教室には外光が差し込んで、といったものが一般的でした。しかし現代では照明も発達し、外光に頼る必要はない。本部棟は形状的に正方形に近い空間が取れるので、ならばそれを活かそうと。その象徴的な施設が、開放感のある研究室を周囲に配置した中央に、学生や研究室間の交流を促すスペースを設置した「オープンラボ」です。
山田:「オープンラボ」については、あまり開放感があり過ぎても研究に集中できない、という意見もありました。そこは皆さんの意見を取り入れながら、交流に適した開放的な空間も、集中して作業に取り組める仕切られた空間も、バランスよく配置できるよう計画しました。学生や教員が時々で多様な使い方ができる空間になったと思います。
飯島:正方形に近い空間には機能のバージョンアップがしやすい、という強みもあります。今つくる建物には、これから100年以上使い続けられる持続性が求められます。用途を限定しない正方形に近い空間のおかげで、時代に合わせた機能に改修しながら、長く使い続けられることも本部棟の特徴です。
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「白亜の殿堂」をイメージした 3層吹抜けピロティ空間の柱
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正方形に近い室内空間
(広報誌「芝浦」2022年夏号掲載)