附属中高の歴史とともに歩んだ工業遺産?SLオブジェが新豊洲にて
2022/11/25
- キャンパス
芝浦工業大学附属中学高等学校100周年記念事業
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2022年11月12日、芝浦工業大学附属中学高等学校(以下、中高)は創立100周年記念式典を実施しました。同校は「東京鐡道中学」として開校し、黎明期には鉄道業界に多くの人材を輩出。その縁から西武鉄道が保管するSL?403号機関車の寄贈を受けました。SL は同年11月より新豊洲の校地内に展示され、貴重な工業遺産として地域の人々に公開されています。
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100周年にふさわしい SLのオブジェを!
― 今秋、新豊洲に登場したSL は1886年に英国で製造され、明治から昭和にかけて日本列島を走り続けた貴重な工業遺産だとお聞きしています。まずはプロジェクト発足の経緯からお聞かせください。
鈴木:2021年9月、中高創立100周年記念事業の一環として、何かオブジェをということで本企画をスタートさせました。中高はもともと旧国鉄で働く職員やその子弟に教育の機会を提供する「東京鐡道中学」が前身ですので鉄道とのつながりが感じられるもの、50年後100年後も走り続ける姿が感じられるものとして、SLが候補に挙がりました。早速日本全国で譲渡いただけそうなSLを探したのですが、状態がよくなかったり、大き過ぎたり。しかし翌10月、本学電気工学科の藤田吾郎教授より「西武鉄道さんがSLを保管されている」という情報が入ったため、本学とゆかりの深い西武建設さんへご連絡しました。
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修繕前のSL
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加藤:当社は以前より芝浦工大の伊代田研究室、長谷川研究室と共同研究を続けています。私自身が芝浦工大の卒業生ですし、母校のお役に立ちたいという想いもありました。鈴見理事長より100周年プロジェクトでのSLをさがしている話をいただき、そこで西武鉄道の喜多村樹美男社長と藤井高明常務にご相談したところ、埼玉県の横瀬車両基地に保管されている403号機関車(西武鉄道4号機関車)を譲渡していただけることになりました。
鈴木:西武建設さんと実機を見に行ったところ、コンパクトで豊洲の景観に合い、中高創立時期に現役で走っていた機関車であることがわかりました。この403号機関車を寄贈していただけることになり、とても有難く感じました。
鈴木:西武建設さんと実機を見に行ったところ、コンパクトで豊洲の景観に合い、中高創立時期に現役で走っていた機関車であることがわかりました。この403号機関車を寄贈していただけることになり、とても有難く感じました。
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鉄道研究部の中学高校生を出迎える並木氏(左)と加藤氏(右)
明治期の姿を忠実に再現 高輪築堤の石も再利用へ
―譲渡が決まってから設置まで、どのようなご苦労がありましたか。鈴木:車両の修復では藤田教授の監修のもと、できる限り明治の姿を再現するよう努めました。当時の汽笛を再現しようと愛知県の明治村にある汽笛の音を集音。1日2回汽笛を鳴らす予定です。他に煙が出る工夫も考えています。
並木:前照灯は現存しないため、他の展示車両を参考に極力当時のものに近く復元して、光る様にしました。
鈴木:運転台は当時のままですよね。ごらんになる方には明治期の機関車を感じていただけると思います。
並木:136年前に製造され、約60年前に現役生活を終えて、その後長く保管されていたSLですので、もちろんサビ取りや再塗装の必要がありました。協力会社についても専門会社の協力を得て、整備に携わりました。
加藤:夏休みには中高の生徒さん14人が横瀬車両基地まで来られて、車体の一部のペンキ塗りをしてくれましたね。修復を経て136年ぶりにピカピカになったSLを今後もきれいに保っていただくために、生徒さんたちには簡単な修復や車体の掃除も担当してもらうことになっています。
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高輪築堤の石を利用した台座
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並木:実は今回の施工でいちばん苦労したのは、車両を設置する基礎の石積みです。1872年に日本初の鉄道が敷設された際、海上を走るために高輪築堤が築かれ、その遺構が2019年に発掘されました。縁あってその築堤の石をいただけることになり、SLの台座として再利用することになったので、歴史的重みをどこまで表現できるか、協力会社とかなり検討を行って施工しました。
加藤:1個あたり80~100kgある石を積める職人は今やほとんど存在しません。当時の施工技術に感嘆しつつ、技術を継承する石工を探し、施工をお願いしました。
並木:SLと石積という題材のコンセプトをいかにマッチしていけるか、気を配りながらの施工を行っています。
加藤:1個あたり80~100kgある石を積める職人は今やほとんど存在しません。当時の施工技術に感嘆しつつ、技術を継承する石工を探し、施工をお願いしました。
並木:SLと石積という題材のコンセプトをいかにマッチしていけるか、気を配りながらの施工を行っています。
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新豊洲に設置するためクレーンで吊るされたSL
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西武鉄道4号機関車として現役の頃の403号機関車
豊洲の観光資源として 地域社会に貢献を
―関係者の方々の努力と工夫もあって、11月12日にSLの除幕式が行われます。
並木:芝浦工大を卒業して29年、まさか母校関係の工事に携われるとは夢にも思っていませんでした。今はこの機会を与えていただいたことを非常に有難く思っているとともに、責任を痛感しております。403号機関車が末永くモニュメントとして活躍することを祈っています。―関係者の方々の努力と工夫もあって、11月12日にSLの除幕式が行われます。
加藤:鉄道関連の仕事が多い当社でも、SL オブジェの工事は初めての経験でした。プロジェクトを完遂できたのは、多くの業者さんが積極的に動いてくださった結果だと思います。私自身は「このSLをなんとか芝浦工大に譲っていただきたい」という点に注力したので、西武鉄道の喜多村社長と藤井常務に改めて感謝の気持ちをお伝えしたいです。
鈴木:中高創立100周年は二度とない大切なイベント。企画から設置に至るまでプロジェクトがスムーズに進んだのは、人と人とのつながりのおかげだと思います。西武建設さん、西武鉄道さん、明治村さん、江東区、港区、東京都、そして業務を超えて協力してくださった多くの方々に感謝の気持ちでいっぱいです。今後はSL展示だけでなく、芝浦工業大学豊洲校舎におけるダットサン展示、豊洲フラワーガーデンも含めて、豊洲の観光資源として地域に貢献していきたいと考えています。
(取材日:2022年9月15日)
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附属中高 鉄道研究部による SL塗装体験
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8月9日、SL修復作業を行っている西武 鉄道横瀬車両基地で芝浦工業大学附属 中学高等学校鉄道研究部14人が塗装 作業を体験しました。気温38℃の猛暑 日の中、現場で修復作業に従事する専 門スタッフから指導をうけ、連結器、 配管部、胴パイプ部の塗装を体験しま した。駅ホーム位置の変更工事体験談 や汽笛音を試してみるなど、鉄道好き が楽しいプログラムを盛り込んだイベ ントとなりました。
参加者コメント
平山 史栞さん 中学2年生
もともと工作が好きで、1/150スケールのNゲージ鉄道模型を制作している鉄道研究部に入部しました。普段は紙やプラスチックにスプレーなどをかけて作業していますが、今回は1/1 スケールにペンキを刷毛で塗ることができました。普段とのスケール感の違いに本物の大きさを実感しました。
黄田 将志さん 高校1年生
イベント参加にあたり、家にある文献から機関車について調べてみると、モノクロの写真ばかりでした。それだけで、いかに貴重なモノで貴重な機会なのかがわかります。当時の色を再現することで、モノクロではなく実物として目の前に存在するのだと強く実感できました。
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次代を走り抜く 新たなシンボル
芝浦工業大学附属中学高等学校 佐藤元哉 校長
この度、本校100周年の記念 事業のひとつとして西武鉄道様か ら403号機関車をご寄贈いただ き本校敷地内に設置の運びとなり ました。記念すべき年に、この「機 関車到着」は東京鐡道中学を前身 とする本校にとりましては望外の 「出来事」であり、何よりの「記念 碑」となりました。また同時に豊 洲の地にとりましてもそのランド マークとして広く地域住民の皆様 にも親しまれることと思います。 今後は次代を走り抜く附属中高の 新たなシンボルとして大切に末永 く保管させていただきます。
芝浦工業大学附属中学高等学校 佐藤元哉 校長
この度、本校100周年の記念 事業のひとつとして西武鉄道様か ら403号機関車をご寄贈いただ き本校敷地内に設置の運びとなり ました。記念すべき年に、この「機 関車到着」は東京鐡道中学を前身 とする本校にとりましては望外の 「出来事」であり、何よりの「記念 碑」となりました。また同時に豊 洲の地にとりましてもそのランド マークとして広く地域住民の皆様 にも親しまれることと思います。 今後は次代を走り抜く附属中高の 新たなシンボルとして大切に末永 く保管させていただきます。
(広報誌「芝浦」2022年秋号掲載)