教員倫理綱領

大学は社会において最高の教育機関として位置づけられ、その期待に添っていることから、大学の自治などの固有の立場が認められています。
それは同時に、社会は大学人に対し最高の学識と倫理観を求め、その行動を激しく見守ることにも繋がっています。

この倫理綱領は、教員のプロフェション性を中心に捉えた自律性の高いものであり、教員自ら、あるいは教員相互に協力してその内実を確固とするための指針であります。

※2000年2月 学長(当時)小口泰平 倫理綱領配布文から抜粋

大学の教員がプロフェッショナルであることは自明であるが、今こそ、その役割と実務の性格を再認識して、社会的機能を果たすことが必要であると考える。

特に大学という組織に組み込まれている個々の教員は、一見すると被雇用者で組織内のスタッフのように見えるために一般の給与所得者と同様に組織の一員として振る舞えば良いかのように錯覚するが、もしそうだとすれば、上司の命令に従い服務規定を守って時間の拘束通りに職務につけば良いことになる。

しかし、教員の仕事とは、そうしたサラリーマン的勤務でこと足りるものでないことはいうまでもない。
単に労働を切り売りするものでもない。
一人一人の学生に対し、その資質を発見し、能力を引き出し、それぞれが生き甲斐と誇りを持って社会での活動の場を獲得できるように、手を貸すことを己れの役割と信じるものであり、自己の学問分野での研鑚を根拠に学生を触発し、次世代に引き継ぐべき糧を与え続けることが使命である。

そうだとすれば、そこにはトレードやビジネスの世界に見る特質は存在しない。
「何を、いくらで、いつまでに」は成立しないからであり、「最善を尽くす」しか成り立たないプロフェッション性が明確な世界でしかありえない。

勿論、学生とその家族?保証人が教員と個別に契約するものではなく、大学という組織との契約により、大学に学費を支払う形を取るが、それは近代社会が生み出した制度や仕組みが成せることであって委任関係の便法としてあるにすぎない。

本質的には教員総体を実質の背景として持つ大学という組織がその機構に学生を受け入れ、「最善を尽くす」ことを前提として契約が成立していると考えるべきであり、教員のプロフェッション性は何ら損なわれるものではない。

そこで教員の活動を秩序あるものとするために、単なる服務規定ではなく自律性の高い活動上の規範を自ら堅持することが不可欠となる。
このことこそが他のプロフェッショナルパースンと同様に倫理綱領を自ら定め、共に働く場を共有する者同志がそれを遵守し、お互いに励まし、協力して各自の自助努力を支え合うことが必要となるゆえんである。

以下に倫理綱領としての 5 項目を提起するが、1~4 は、プロフェッションとしての特質から当然に導き出される原則であり、5 は、その原則に忠実であろうとする個々の人々が、個人としての弱さを克服するために、いわば「プロフェッショナルアソシエーション」の如く連帯するための組織の確認である。
 

1 教育職の能力の高揚と研鑚につとめる

我々は、自らが教育職でありうる、それぞれの専門分野について、常に高度の研鑚につとめ、日々新たな知見の把握を図り、社会の付託に応える能力を高める努力をつくす。
これは個々人の責務であると同時に教員が相互に協力しあい、組織としても十全な機能を発揮できるよう最善をつくす。
  

2 自由と独立の立場を保持する

我々は、権力や利益の誘導に惑わされることなく、公正と人間の尊厳をかけて学問の自由を守り、真の社会的正当性を貫くために独立の立場を確立する。
当然のことながら、ここで言う自由と独立、とはプロフェッションの立場を明確化する原点でもあり、自分勝手や独善というような意味を含んではいない。
プロフェッショナルサービスとして行われる行為は、教育を含め無限の実務責任が伴うもので自らの行為の結果については、終生その責任から逃れることはできないことを理解する。

3 依頼者(学生と家族?保証人)と社会への対応をあやまらない 

我々は、依頼者の目的、期待に応えて教育を充実させ、学生の個々の能力を高めて世に送り出すことに最善をつくす。
このことは単に依頼者の利益を図ることだけに目的があるわけではなく、教育を通じ、より高いレベルの社会構築を目指すことに重要な役割があり、教育に求められる公共性を担保することを目指す。

4 責任を果たし、権利を守る

教員=プロフェッショナルパースンとしての責任は、前 3 項を確実にするために如何に自律できるかにある。
そして自らの職務の遂行のために可能な限りの工夫や努力を尽くすことを個人と組織が共に求められていることを認識する。
先ず学生に対する責務を優先して果たす。
職務の直接の対象者である学生に対しては確実な対応と人権、人格及び多様性の尊重を約束する。
同僚に対しては協働者としての配慮のもとで相互に評価を与え、職務の充実に協力する。
組織としての機能を高めるために、その構成者としての義務を果たすべく力をつくす。
以上の責任を果たすために、不当な支配介入を拒否し、良好な教育環境を求める権利と適切な報酬を受ける権利を守る。
こうした責任や権利の確保のため積極的に大学の運営に参加、協働する。

5 倫理規程を守るための組織を持つ 

同じ職務に携わり、同じ理念を共有できるプロフェッショナルパースンは、協働してプロフェッショナルアソシエーションを組織し、倫理綱領を定め、連帯を図り、相互の交流と情報交換、職務遂行のための環境や倫理の整備、そのための社会や他者への働きかけ、構成メンバーの倫理綱領からの逸脱の防止と対応の措置等々を組織的に実行している。
我々は、幸いにして学長の諮問および学長への意見具申を行う会議体として教授会を持っている。
倫理綱領を堅持し自発的に教員一人一人が徹底するための場として活用することができる。