豊洲キャンパス本部棟 竣工記念座談会<後編>

2022/08/25
  • キャンパス

新時代の大学のランドマークとして「本部棟」誕生までの軌跡

202208_feature1_1-2-min

実際の施工現場を 教育?研究に活用

―建物の設計、ならびに機能の大枠が固まり、その後、施工担当として鹿島建設さんが本格的にプロジェクトに参画することとなります。

渡邉:最初のプロジェクトリーダーとなった番の就任が2018年のこと。私もともに参加していましたが、初めて設計を共有した際に目に入ったのが、校舎を取り囲むアルミルーバーでした。その時に番が確認したところ、総計で約1万5000mもの長さに及びました。

飯島:ルーバーで校舎全体をくるむというのは私たちからの提案ですが、では実際にどうつくるか、どのように雨水を流すか、また風切り音の問題の解決方法などは、当初から番さんと渡邉さん、そして鹿島技術研究所にも協力いただきながら技術とコストの両面から検証を進めていきました。ここにはかなりの時間を割いています。
202208_feature1_12
202208_feature1_9
:検証の前にはコストを抑えるために、ルーバーをどこで加工するか、といった点にも奔走しました。結果的に国内で制作することになりましたが、海外の製造現場の視察なども行っていました。

渡邉:外観ではアルミルーバーが印象深いですが、一方屋内で言えば、オープンラボの天井を、中の配線や配管が見えるよう、天井を抜いた造りにしています。工学を学ぶ学生の皆さんに天井裏にも目を配り、気付きを得てもらいたい、という狙いなのですが、実は「すっぴんでもきれいに見える」ように、気を配った造りになっていまして。

―と言いますと?

渡邉:施工の経済性を考えれば、配線や配管は最短ルートを狙って斜めに配置したりするのですが、皆さんの目に触れるとなるとそうはいきません。建築のベースとなる“縦?横?直角”を意識して、見た目にも美しく仕上がる施工を意識しました。

堀越:学生に「どうなってるんだろう?」と興味を持って見てもらえるような造りとしたのは、理工系大学だからこその施工の工夫だと思います。

202208_feature1_10
校舎全体をくるむアルミルーバー
202208_feature1_11
校舎全体をくるむアルミルーバーの推移。 一番下の木の葉型が最終的に使用されている


―理工系大学ならではの取り組みとして は、建設現場を学生の学びや研究のフィー ルドとして活用したという話もうかがいましたが。

:弊社の横浜支店で、一人で複数の業務を手掛けられる「多能工」の活用を進めていたことがきっかけです。多能工には施工現場の生産性向上が期待されるのですが、その取り組みについて「せっかくならば」と、建築学部の蟹澤宏剛教授と合同で、研究として調査していこうという話になりました。

山田:鹿島建設には施工現場の作業進捗を学生たちが見られるよう、Webページも制作してもらいました。建設中にカフェテリアなどに足を運ぶと、学生たちが「いま何をしているんだろう」と、現場を眺めながら話をしているんです。ならば学生たちにしっかり見てもらえるようにと、お願いした次第です。

:他にも建築学部の学生さんたちには、施工現場で教室を開いて、実際に鉄筋を組む作業などを体験してもらいました。

―施工現場には、芝浦工業大学の卒業生 も参加されていたようですね

渡邉:建築所員で1名、設備系の所員で2名の芝浦工業大学の卒業生が現場施工管理に関わっています。

山田:嬉しい話ですよね。そのうち2名は女性所員の方ですから。大学として女性技術者の育成を推進している中で、そういう方が母校の建設に関わっていることは、喜 ばしい限りです。

202208_feature1_13
中の配線や配管がむき出しの天井

100周年のさらに その先を見据えて

山田:完成直後の4月から一部スペースは学生に開放しているのですが、教室前のフリースペースは、学生が勉強したり、食事をとったり、待ち合わせしたりと、快適に使っているようです。コロナ禍による新様式の誕生などは、当初の計画時点ではもちろん予想していませんでしたが、広々としたスペースを取ったことが、結果的に新しい学びの在り方にマッチしているなと感じます。

飯島:校舎が完成したことで、私たちのような設計や施工に関わる人間にとっては一区切り、となりますが、建物としてはここがスタートラインです。これから本部棟を使う先生方や未来の学生たちが、建築をさらにつくっていくことになります。ここで学んだ学生たちがどのように社会に羽ばたいていくか、見守りながらも、より良い本部棟となるべくお手伝いしていければ、と考えています。

堀越:建築物は大学にとって非常に大きな存在なんです。伝統的な良さを引き継ぎつつ、新しい発見が得られる校舎であること。そこは大学と日建設計が、同じビジョンを見つめながら、設計を進められたと感じます。

:100周年はもちろん、大学が200周年を迎えた時に、より価値を高めている建物になっていて欲しいですね。

渡邉:私はもう早く学生さんたちに使ってほしい(笑)。建物は使われてこそ、魅力が増しますし、ユーザーとなる皆さんの反応を早く見てみたいというのが本音です。
202208_feature1_14
―これから100周年を迎えるにあたり、またアジア工科系大学トップ10入りなど、幾多の目標を掲げる中で、本部棟が大学の未来に与えるインパクトは決して小さくないと思われます。

堀越:空間の構成、街との関わり方、学生たちの日々に対して、未来を感じさせる、好ましいアクティビティの誕生を感じさせるもの。大学の権威を示す旧態依然としたものではない、新しい時代の大学キャンパスのランドマークとなりました。

山田:完成した本部棟を見て、これからの芝浦工業大学のブランドに貢献する存在になり得ると、感じています。あとは私たちがこの校舎をどう使い、どのような姿につくり上げていくか。学生とともに、未来への道を描いていきたいと思います。


(広報誌「芝浦」2022年夏号掲載)

  • 前編へ